2014年12月1日月曜日

【参加レポート】あおもりIoT研究会キックオフセミナー

11月27日(木)に、青森市で開催された「あおもりIoT研究会キックオフセミナー」へ参加して参りました。

IoT(Internet of Things)は、モノのインターネットと言われ、センサや家電、自動車、ロボット、産業機器など多種多様なものがインターネットに繋がり、連携して動作することで新たな価値を提供する仕組みと考えられています。モノをインターネットに接続するためには組込み技術が必要となりますが、オープンソースハードウェアという新たな取組も台頭し、モノのインターネット接続が容易になってきています。また、3Dプリンタは高性能化と低価格化で注目を集めていますが、インターネット接続されることで、ものづくりが変革すると言われています。このようにモノがインターネットにつながることで、地域におけるものづくりも大きく変わる可能性があります。
そこで、IoTをとおして新たなものづくりやサービスについて、県内の製造業者やIT事業者の方々と一緒に検討していく会を立ち上げたというのが「あおもりIoT研究会」です。
今回はキックオフセミナーとして、IoT分野に精通している3名の方の講演を聞いてきました。


【開催概要】
▼日時:2014年11月27日(木)13:00~15:30
▼会場:青森国際ホテル3F 萬葉の間(青森市新町1-6-18)
▼主催:地方独立行政青森県産業技術センター工業総合研究所、
    青森県、新時代ITビジネス研究会
▼共催:日本アンドロイドの会
▼後援:一般社団法人青森県情報サービス産業協会、一般社団法人青森県工業会、NPO法人地域情報化モデル研究会
▼参加者:県内企業、関係団体、大学等 100名
     (青森ITビジネスアイデア開発支援事業のスタッフからは8名参加しました)

【プログラム】
1.挨拶(13:00~13:10)
(地独)青森県産業技術センター工業総合研究所 所長 市田 淳治 氏
2.講演1(13:10~14:10)
「Android Project Araとものづくりの未来 --新しい生産のスタイルと地域の可能性を考えるーー」
日本アンドロイドの会 名誉会長 丸山 不二夫 氏
3.講演2(14:10~14:45)
「オープンソースハードウェアのプラットフォームビジネス」
株式会社GClue 代表取締役 佐々木 陽 氏
4.講演3(14:45~15:20)
「3Dプリンタと広がる活用法」
丸紅情報システムズ株式会社製造ソリューション事業本部 課長 吉田 武史 氏
5.ご案内(15:20~15:30)
「あおもりIoT研究会について」
(地独)青森県産業技術センター工業総合研究所 電子情報技術部長 小野 浩之 氏
6.閉会(15:30)
7.その他

【講演1】
「Android Project Araとものづくりの未来 --新しい生産のスタイルと地域の可能性を考えるーー」
日本アンドロイドの会 名誉会長 丸山 不二夫 氏

現在、色々な形で起きようとしているものづくりの世界についてのお話でした。

≪ネットワークなどの歴史≫
クラウドとクラウドデバイス、インターネットの歴史とこれからについて詳しくご講演いただきました。
まず、ITの進化が大きく変わったのはクラウドができたという事が大きいとのお話から始まりました。
2004年にGoogle上場から始まったクラウドとクラウドデバイスの時代は、Google、Amazon、Apple、Facebookの4企業によって大きく変わっていきました。
ネットワークも非常に大きく変わりました。
21世紀に一番伸びたのは携帯電話で、2013年時点で所有率が世界平均で96.2%になりました。スマートフォンは最近になって伸び始め、10年前の携帯電話と同じ水準まで普及しています。
今後の十数年で新たに40数億人がスマートフォンを持つことを「ネクストビリオンズ」というそうです。
また、70億人がインターネットにつながることを「グローバルネットワーク」といいます。
20世紀最末期にはじまり、現代の社会と経済に大きな影響を与えてきたIT化の一つの段階が終わり、次の段階が始まるという歴史的な瞬間を迎えつつあるのです。
20世紀のテレビの時代には誰も携帯電話は持っていませんでしたが、21世紀のモバイルとインターネットの時代になり、情報取得方法も変わりました。

≪IoTの意味するもの≫
モノのインターネットと言っても自然なものではなく、機械のインターネットです。また、今後はヒトのインターネットからモノのインターネットになっていくと考えるのはよくないと丸山さんは話していました。インターネットにおいて最も大事なことは利用する人の数が増えてきているという事です。ヒトのインターネットは今後も変わらないでしょう。
また、インターネットがヒトのインターネット、メディアとしてのインターネット以外に利用できるという期待やコンピュータが人間にとって使いやすくなるという期待もあります。
それぞれのネットワークが生み出すものについてのお話もありました。
SNSの普及を後押ししたのはメディアとしてのネットワーク、自然のエコ・システムなど、人間が作り出す社会的なネットワークが経済のネットワークです。
エンタープライズシステムはまだ経済活動の接点において部分的なものであると丸山さんは指摘しています。生産システムや商品流通、広告、販売システムも狭義のエンタープライズ系のシステムとはかけ離れています。丸山さんは、経済の全過程のネットワークへの包摂という展望がどのような変化をもたらすかというところに関心を持っているそうです。

≪IoTのコンセプト≫
IoTのコンセプトは「全てのものにIDを持たせる」というケビン・アシュトンが発信したアイデアが始まりです。
インターネットのように全てのマシンに名前を付ければ合理的に流通ができるのでは、ということでモノのインターネットと例えたそうです。

≪IoTと企業、世界≫
IoTは社会生活にITを浸透させようというものなので、IT企業にとってはそのリーチを拡大する絶好の機会となります。
活発に取り組んでいる企業について、ご紹介していただきました。
流通にロボットを取り入れたり、車やロボット産業に参入しようとしているなど、かなり活発に動いているようです。
また、人工知能がクイズ大会で優勝したというニュースも取り上げられていました。人間と機械の関係が大きく変わろうとしているのです。
製造業の変革に対する各国の取り組みも紹介していただきました。

♦ドイツ
新たな産業革命を進めようとしています。
国を挙げて製造業に取り組み、考えています。

♦アメリカ
メイドインアメリカへの回帰を掲げています。
ITに力を入れているのは間違いないが、オバマ大統領になってからアメリカ製造業の近代化に向けて頑張っています。
製造業の次の革命がメイドインアメリカになることを望んでいるようです。

♦中国
世界一の製造大国である中国は2008年以降機械大国になっています。
7つの戦略的産業で外国への技術依存からグローバルな技術ができるようになりました。

≪ものづくりにおいて大切な事≫
企業がアウトソーシングの能力を得てから数十年が経ちますが、私たちが今目にしているものは多くの企業がものづくりの強さを再構築している姿です。
労働力のコストが問題になる時代は終わりつつあり、ものづくりの形はすでに変わってきています。
その上で大切なことは、頭の中でデザインができるかどうかという事だと丸山さんは話していました。
なるべくどこでもやることが、今グローバルな世界で必要となっています。
また、望むものを望むときに作ることができるようにもなりました。
オープンソースハードのように、ものづくりはデジタル化され、分散化されています。
要するに、世の中で一番売れているものはそれぞれの年代で変わっていきます。
最後に、私たちにとってよりハッピーなものは何か、今一度考えなくてはならないと丸山さんは話していました。


【講演2】
「オープンソースハードウェアのプラットフォームビジネス」
株式会社GClue 代表取締役 佐々木 陽 氏

オープンソースハードウェアについてのお話でした。

≪オープンソースハードとは≫
オープンソースハードとは、設計図が公開されたハードウェアであり、その設計図やそれに基づくハードウェアを誰もが学び、改変し、頒布し、製造し、そして販売できる物の事です。
紙で頒布するのは昔から行われていましたが、ネットワーク上でやり取りされるようになったのはほんの最近のことだそうです。
誰もが簡単にできるように電子回路を公開したのがイタリアの会社です。同じ回路を別の会社が同じ名前を使わなければ有料で販売してもOKとし、300社くらいが同じ電子回路を作りました。
コミュニティへの貢献という面や自分が作ったものがどう進化していくかを楽しんでいる面もあるそうです。

≪オープンソースハードの普及に関して≫
変更を加えるのに適したファイルを無償で提供しているということもあり、今まででは考えられなかった規模で普及してきています。教育も公開しているので、同じボードを使って色々なことができます。
理想的には、万人が作って利用する可能性を最大限にするため、

・容易に入手できる部品と材料である
・標準的な加工方法
・オープンな基盤
・制約のないコンテンツ
・オープンソースの設計ツール

を使用することが望ましいとのことです。
オンラインストアで汎用部品が購入できるので、どこにいても誰でも作れるようになりました。地域的なアドバンテージがなくなってきているともいえます。
人によっては3Dプリンタもホームセンターで売っている部品で作っているそうです!
汎用的で購入しやすい値段のもので作ることがオープンソース業界で一つの価値になっています。大きな目標は普及させること。
また、加工方法については最先端の加工機械を使えるところが強いそうです。しかし、先ほどのホームセンターの部品で作った3Dプリンタのように、自分で加工機械を作る人もいます。加工機械があるかないかがターニングポイントになりつつあります。

≪オープンソース業界で重要な事≫
オープンソース業界で重要なのはオープン性であると佐々木さんは話していました。
アルドゥーノ、ラズベリーパイなど、みんなでビジネスや技術を作り上げていくことやオープンソースの設計ツールが大事になってきます。
オープンで手に入る無料に近いものを出し、誰もが使える設計ツールを作り出す。今までは色々な部分がクローズなものでしたが、オープンなビジネスがクローズなビジネスに対抗すると佐々木さんは考えているようです。知恵を共有できることがビジネスの大きなポイントになってきます。

オープンソースハードウェアは、設計図のオープンな公開による知識の共有と商品化を奨励すると同時にテクノロジーを統御する自由を人々に与えています。クラウドファンディングのほとんどがオープンソースハードであるとお話していました。
テクノロジーを統御する自由があるので、皆で考えて作っていくという世界になっています。

≪オープンソースハード業界の事例≫
では、実際どれくらいビジネスで大きくなってきているでしょうか。
例に挙がったのはアメリカ・デンバーにあるスパークファンという会社です。
オリジナルの基盤を作って出荷している会社ですが、オープンソースハード業界には同じような会社がたくさんあるそうです。
プログラムを書く人は世界で2000万人になっています。小学生でも趣味でプログラムを書いている人もいます。それからハードウェアの世界にプログラムを趣味で書く人が増えていくだろうと佐々木さんは予想しています。
また、自分達で作ったものは公開して12週程度でコピーされるのが目に見えているので、時間のかかる特許を取るよりも新しいものをどんどん作った方がいいとして、新開発を常に進めているとのことでした。
最後に、佐々木さんが福島でやっているFab蔵の紹介がありました。
発明、共有、作ることをしている場所で、新しいものを作って公開していっているそうです。
レーザーカッターと3Dプリンタ、リフロー機などがあり、色々なものが作れる施設になっています。
自分で色々なものを作ると経験値にもなり、ノウハウもたまります。


【講演3】
「3Dプリンタと広がる活用法」
丸紅情報システムズ株式会社製造ソリューション事業本部 課長 吉田 武史 氏

3Dプリンタの歴史やどのように使われているかのご紹介でした。

≪3Dプリンタとは≫
そもそも3Dプリンタとは、三次元CADデータのデータを読み込み、立体モデルを造形する機器のことです。
STLデータを3Dプリンタに流し込むと自動的に立体モデルができます。
以前は三次元造型機と呼ばれていて、3Dプリンタという名前は最近になって浸透し始めたそうです。
小型化、100Vの電源で動作可能、簡単な操作、オフィス環境で使用できるようになった等の要因で私たちの生活に身近な存在になりました。
そもそも3Dプリンタはいつから登場したのでしょうか。
3Dプリンタは1980年代に日本人のアイデアをアメリカの会社が製造を進めたのが始まりだそうです。
当初は製品の試作段階で使われることが多かったとの事。

≪3Dプリンタブームの3つの要因≫
昨今の3Dプリンタブームの要因を3つ紹介していました。

①クリス・アンダーソン著「MAKERS」
 「資本が必要だったものづくりが、ITの進歩で個人でも可能となる」という事が書かれています。個人でもデスクトップなどで作れるようになりました。

②オバマ大統領 一般教書演説
 「3Dプリンタはあらゆるものづくりに革命をもたらす」といった演説です。

③低価格3Dプリンタの普及
最近3Dプリンタは家電量販店でも手軽に変えるようになりました。
都内の家電量販店では3Dプリンタコーナーが設置されるようになったそうです!

ただ、3Dプリンタを実際どのように使うのか分からない人も中にはおり、製造に3次元のデータが必要だと知らない人もいるそうです。

≪3Dプリンタの特徴≫
次に3Dプリンタの特徴をメリット、デメリット別に紹介していました。

3Dプリンタのメリットは…
○データから直接造形をするので短時間でモデル入手可能
○小ロット物のコストが低い(少量作る時は圧倒的に安い)
○デザインの制限がない
 複雑な造形のものでも組み立てることなく作れる
○簡単操作、人がついていなくても造詣ができる

逆にデメリットは…
×大量生産のものには不向き(時間、コストがかかる)
×積層方式なので、積層段差ができる
×素材を自由に選べない

結論から言えば、量産品を製造する時は金型で製造した方が効率的だがオーダーメイドのものは3Dプリンタが適しているとの事でした。
方式も熱溶解積層方式、インクジェット方式、粉末積層方式などがあります。粉末方式はフルカラーモデルを造形可能です。
3Dプリンタのモデルは試作(ラピッドプロトタイピング)やDDM(ダイレクトデジタルマニュファクチャリング)があります。
DDMとは、データから直接使えるようなものを作ることです。従来の製造工程よりも迅速な対応ができ、欲しいときに欲しいものを手に入れられます。カスタムオーダー、小ロットへの対応、作成コストの削減などがメリットです。小ロットパーツの製造、治具・工具の製造に利用されています。

≪3Dプリンタの活用事例≫
最後に3Dプリンタを活用している事例を紹介していただきました。
①レスキューロボットのセンサや計測器パーツの作成
 トライ&エラー回数を増やすことでより良いパーツ制作をしています。以前は手作業でやっていたが、時間短縮とクオリティ向上で3Dプリンタでしか作れない設計が可能になりました。

②モータースポーツの部品
 サージタンク、インジェクターパイプなどを製造しているそうです。従来複数だったパーツも一体化できました。

③治具
 ホース製造業や自動車関連業者で作られています。以前は一か月かかっていたそうですが、3Dプリンタを導入して行程が4分の1に削減できました。自動車はエンブレム貼り付け治具に使われています。また、簡易型を作ることにも使われているそうです。

④医療装具
 アメリカで2歳の女の子が3Dプリンタで作った装具を使ってリハビリに取り組んでいるそうです。以前は金属で固定されていましたが、プラスチックで作られるようになり軽量で動きやすくなりました。成長過程に合わせたパーツの変更も簡単に可能になり、3Dプリンタのいい使い方だと紹介されていました。

3Dプリンタを効果的に使うためには、
・目的に応じて機種を選ぶこと
・用途を考えて使用する事
・3Dプリンタを前提とする設計をすること
が重要となってきます。


最後にあおもりIoT研究会の案内があり、全日程が終了しました。
地方だから最先端のものが使えないと思われていた時代から、自分でも色々なものが作れる時代になったのだと改めて思わされました。
特に丸山さんのお話にあった「私たちにとってよりハッピーなものは何か」という言葉は、考えさせられるものでした。
私たちが今後するイベントでも、よりハッピーなものは何かを考えられるようにしていきたいです。

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